東京都青少年健全育成条例「改正」

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–表現と規制・表現と行為

 

 

継続審議となっていた東京都青少年健全育成条例の「改正」案が、
一部修正され、12月議会に再度提出された。
6月議会では民主党からの賛同が得られなかったが、今回は、
民主、自民、公明の3会派が「慎重な運用」を求める付帯決議付きで合意、
このため、15日に賛成多数で成立することが確定的となった。

⇒マンガの過激性描写、東京都の規制条例成立へ「慎重な運用」で3会派一致

今回の修正案では、規制(保護)対象を指す、「非実在青少年」
(描写から十八歳未満と認識されるもの)というあいまいな表現は削除され、
条文は以下のように変更された。

「漫画、アニメーションその他の画像(実写を除く。)で、刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げ、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」

⇒都の青少年健全育成条例改正案、条文が明らかに、ネット・携帯関連も修正

これには、規制を課される当事者となる漫画・アニメ業界、出版社だけでなく、
日本ペンクラブ、東京弁護士会など、各方面から反対の声が上がっている。

⇒東京アニメフェア:コミック10社会が参加拒否の緊急声明

⇒都青少年育成条例改正案、日本ペンクラブと東京弁護士会が反対表明

これら反対声明は、6月改正案と同様に、
修正案においても「表現の自由」については一顧だにされず、
加えて、規制対象が18歳以下から年齢制限なしに拡大されてしまった、
という点を主張している。

私が以前書いた改正案に対する疑問・反対意見は、
修正案についても全く変わるところが無い。

⇒竹宮恵子 vs アグネス・チャン・・・「東京都青少年健全育成条例の改正案」について

⇒東京都青少年健全育成条例の「改正」について

修正案が成立すると、性描写に関して、作者や出版社に、
自主規制と販売規制が設けられる。
都の条例ではあるが、出版そのものが自主規制となれば、
影響は日本全国に及ぶ。

今回の修正案で目に付くのは、
「漫画、アニメーションその他の画像(実写を除く。)」と、
対象を明確にし、アニメ以外の映画や小説などを除外している点だ
(6月改正案では、「視覚により認識できる方法で」とあいまいだった)。
これにより、漫画・アニメーション業界以外からの反発は抑えたい、
ということだろうか。

だが、誰もが指摘している通り、これは媒体・分野を問わず、
表現と規制にかんする問題だ。
表現に関わる誰も(ということは表現する側も、
それを受け取る側も)、この修正案を、
漫画・アニメだけに課されるごく一部の規制だ、とは捉えないだろう。

以前書いたことの繰り返しにはなるが、ここでも、
「表現の自由」以外に、もっと疑問の声をあげてもいいと思う点について、
少し触れておくことにする。

ひとつは、性描写と性犯罪の関連について、
科学的根拠が示されていないこと。
日本のこの50年を見ると、
たしかに漫画・アニメの過激な性描写は増えているかもしれないが、
性犯罪数は、実は減っているのだ(犯罪白書)。

また、日本よりはるかに厳しいコミックス・コードにより、
漫画・アニメの性描写を禁止しているアメリカの性犯罪数は、
日本の17倍である。
これら参考となる諸外国の数字も、都は示してはいない。

アメリカでは、性描写に対する厳しい規制が、
コミックスの衰退を招いた(『街場のアメリカ論』内田樹)とも言われるが、
表現が行為を引き起こすというあまりに短絡的な思考回路が、
日本が世界に誇る漫画・アニメ文化の質に及ぼす影響も、心配である。

表現と行為については、内田樹氏も、

「有害な表現」というのは人間が「有害な行為」をした後に、
「これが主因で私は有害な行為に踏み切りました」と
カミングアウトしてはじめてそのように呼ばれることになる。

⇒既視感のある青少年健全育成条例についてのコメント

と述べているが、そもそも、ある表現を行為に先んじて、
「有害」と規定することはできない。つまり、

「それ自体が有害な表現」というものは存在しないということである。

この点に関して、今回、あれこれ拾い読みしていて知ったことがあった。
作家・石原慎太郎原作で映画化された『処刑の部屋』(1956年)が公開されたあと、
作品に影響を受けたとして強姦事件が起こった、というものである。
内田氏の定義によれば、この作品は「有害な表現」ということになる。

が、これと同じように「有害な行為」を誘導した表現は、
過去にどれくらいあるのだろうか?
資料をあたれば調べられるはずだが、
一般化する危険を持つ少数の特異なケースが都知事に起こった、
ということが、今回大きな影を落としているような気もする。

 

【追記】

昨夜のうちに投稿したくて急いで書いたため、言い足りないことも多く、
追記します。

また、12月6日に開催された「都条例問題を考えるシンポジウム」で語られたことが
こちらで紹介されていました。

⇒漫画の中で犯罪を表現したらアウト!? 
・・・呉智英氏、保坂展人氏ら都条例シンポに登壇 『非実在犯罪規制』を語る

さて、もう少し表現と行為について。

映画『処刑の部屋』が引き金になったという強姦事件で、
もしこの作品がなかったら、彼らは強姦しなかっただろうか?
これは証明できないことだけれど、同様に証明できないことがある。
この作品を観たことによって強姦することを止めた、という人がいるだろうか、
という疑問である。

つまり表現が行為を助長するのではなく、抑止する、
ということはある得るのか。
実際に行為に及ぼうとしている人が、それによって止める、
ということは考えにくいかもしれないけれど、
暴力的な欲望が鎮められた、というのはありそうな気がする。
いずれの数がより多いのかは、言うまでもないだろう。

ところで、人間は、なぜ強姦するのか?
これは、特に、強姦する側にいる男性に考えてもらいたい問いである。
そしてまた、強姦した男性に訊いてみたい問いである。

古代社会だけでなく、現代においても、
戦争に略奪と強姦はつきものだ。
統計的に強姦件数が一番多いのは南アフリカだが、
これらの事実と表現は、どのような関係にあるのだろうか?
少なくとも、表現と行為とどちらが先かとなれば、
まず行為があった、ということになろう。

人間の性は、行為だけでなく、
性的なファンタジーを必要とする、やっかいなものだ。
そして、私たちの社会で、「強姦」がそのファンタジーのひとつであることは、
憂うべき現実である。
だがこのことと、実際の犯罪とは、
別のこととして考えなければならないのではないか。

漫画やアニメなどの表現の規制を言い出す前に、
もっともっと力を入れなければならないことがあるはずだ。
そのうちのひとつ、性教育はどうなのか。
そこで、強姦被害者の生涯にわたる心の傷は、しっかりと語られているのか。
性は両性にとっての歓びであると、しっかりと伝えられているのか。

 

6 Comments

  1. あー、この話題チェックしていなかったわー・・・。
    議会 通ったんだ。うわあ・・何で。
     
    民主党も成立議案が少ないって言われてるから
    「この辺だったら『運用を慎重に』シールを貼って
    通しちゃえ」 ・・って感じで折れたのかしら?
    しかし こういう記事を読むと 国会は立法権を握っていて
    一般国民がどれほど熱心に反対運動を展開していようとも
    まったく無視して法制化することが出来るんだと再認識しますね。
    この「慎重な運用を求める付帯決議付き」というのが
    どーうにも嫌らしいデス。
    お役所の「事なかれ事大主義的運用」が今までトンでもない
    レベルだったから これだけ反対運動が起きてるのになあ。
    人を噛まないように充分注意をしましたといって
    ワニを放し飼いにする位の無責任な制定よね 通ったら。
    ・・で 通る見通しなのよねえ(--;)。 
    だけど(実写を除く)というのも 何だろ?と思うただし書きだ。
    ビジュアルの影響力を言うならば 実写を除外するってのは変
    と 誰でも思うようなことを 何で平気でするんだろ?
    電子図書というマルチメディアな図書まで出てくる時代に
    メディアを限定した規制を作ろうとする感覚が 
    アタシみたいな年齢の者からみたって思い切り時代遅れ。
    そのセンスで 表現に対して規制力を持つのはやめて欲しい。

  2. ボニちゃん、
    (今日の)都議会総務委員会で民主、共産など3会派が
    「規制は最小限にすべきで、出版業界の合意が必要」
    などと意見を述べた後に、賛成多数で可決。
    改正案は15日の本会議で採決され、成立する。
    「作品に表現した芸術性、社会性などの趣旨をくみ取り、慎重に運用する」
    との付帯決議が付けられた。
    だって。
    >民主党も成立議案が少ないって言われてるから
    「この辺だったら『運用を慎重に』シールを貼って
    通しちゃえ」 ・・って感じで折れたのかしら?
    民主党は、「慎重に議論して都民の誤解を払拭していく必要があり、
    保護者や事業者、作家など関係者の意見を広く聞く必要がある」
    って言ってたくせに、修正案が出て(11月22日)からのこの日程で、
    いつ、「慎重な議論」をして、「広く意見を聞いた」んだ!?
    いくら、文句つけた文言が削除されたからって、
    電光石火の可決にまったをかけるぐらいのことはできただろうに。
    なんか、是が非でも通す、という都(知事)の勢いに飲まれちゃったみたいに見えるよ。
    >この「慎重な運用を求める付帯決議付き」というのが
    どーうにも嫌らしいデス。
    ほーんとそう。
    >だけど(実写を除く)というのも 何だろ?と思うただし書きだ。
    ビジュアルの影響力を言うならば 実写を除外するってのは変
    と 誰でも思うようなことを 何で平気でするんだろ?
    実写と小説を対象にすると、
    石原作品(『処刑の部屋』)が規制対象になっちゃうからだって意見、
    【追記】で紹介したシンポにも出てたけど、どうなんだろう。
    猪瀬副知事の、漫画・アニメ好きを蔑視したようなツィッター発言も
    問題になってるみたいだけど、
    漫画・アニメという媒体に対する評価がどうなのか。
    それだけ大きな影響力があると恐れている、ということか。
    でも恐れは、たいていの場合、無理解から生まれるのよね。
    >電子図書というマルチメディアな図書まで出てくる時代に
    メディアを限定した規制を作ろうとする感覚が 
    アタシみたいな年齢の者からみたって思い切り時代遅れ。
    >そのセンスで 表現に対して規制力を持つのはやめて欲しい。
    うん、時代遅れで、かつ、
    日本の表現の未来と可能性を萎縮衰退させる反動だと思う。
    漫画・アニメは、大事にしなきゃいけない日本の数少ない(ソフト)資源なのに。
    しかし石原知事は、もう表現者であることを止めたんだね。
    >しかし こういう記事を読むと 国会は立法権を握っていて
    一般国民がどれほど熱心に反対運動を展開していようとも
    まったく無視して法制化することが出来るんだと再認識しますね。
    うん、無力感にも襲われるけど、
    でも、反対運動がなんの役にもたたないかと言うと、違うと思うよ。
    条例だって憲法違反、ということもあり得るわけだし。
    上記シンポも、短期の告知時間しかなかったのに、
    定員550人の会場に1600人が集まり、
    あふれた約1000人の参加希望者はサブ会場でのパブリックビューイング、
    そのサブ会場にも入れずに帰る人も出るという盛況ぶり、
    だったそうだし、出版社10社のアニメフェアボイコットとか、
    今回かなりの反対の声が出てるでしょ。
    大事なのは、今回の修正案が通っても、
    ずっと疑問の声を上げ続けることじゃないかな。
    自主規制で必要以上に萎縮してしまわないよう、表現者も読者も、
    できることを考えるとか。
    あとは、これが東京都だけじゃなくて地方に広がっていかないようにするとか。
    表現に関しては当県は大きな自由を認めています、という県があって、
    出版社が全部引っ越しちゃった、なんてなったら面白い。
    現実的にはあり得ないかもしれないけど、でも、
    都だって知事が変わったりして、また別の修正案を出せるかもしれない。
    実はもういっこ、記事では書かなかったけど、ひっかかったのが、
    「婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為」
    というのが入ったこと。
    これは、家庭内幼児性的虐待、ということを言いたいのかな、
    とは思うけれど、いきなり近親相姦が対象に入ったのに違和感がある。
    あまりに範囲が広くなっちゃうし。
    このあたりも、充分に議論が尽くされ、練られていない、すごく雑なかんじがするよ。

  3. 前にも言ったかもだけど、23才の次男にこのことをどう思うかって聞いたら、
    「こういうのを読むことによってカタルシスを得られて抑止になるって効果のほうがはるかに高いと思うんだけどな」って答えたんです。
    なるほどそうかって思ったんです。
    でもそれも証明できないもんね。
    そういう部分には言及しないっていうか、考えようとしていないのか、
    わざと目をつむってるのか、どうなのかな。

  4. しーたちゃん、
    >「こういうのを読むことによってカタルシスを得られて抑止になるって効果のほうがはるかに高いと思うんだけどな」
    いや、これはすっごくあるよ。
    だいたい私たちは、何故小説や漫画を読み、映画を観るのか!
    現実では得られない体験をフィクションの世界で生きたい、ということだよね。
    それによって、現実世界においては己を律して生きていける、というのは絶対あると思う。
    >そういう部分には言及しないっていうか、考えようとしていないのか、
    わざと目をつむってるのか、どうなのかな。
    信じられないのは、かつて(と言ってしまうけど)表現者であった知事が、
    こういう表現の在りようを忘れてしまってるってこと。
    あるいは、もしかしたら、わかっててやってるのか。
    つまり、日本の自由な表現と、
    性犯罪数が反比例していることを知っているのなら、規制によって、
    日本の若者の現実の性行為が暴力的になるのが望ましい、と思ってることになる…。

  5. >だいたい私たちは、何故小説や漫画を読み、映画を観るのか!
    >現実では得られない体験をフィクションの世界で生きたい、ということだよね。
    >それによって、現実世界においては己を律して生きていける、というのは絶対あると思う。
    まあ・・ね
    ただ 確かに中には「こんなモンに いささかでもカタルシスを感じるとしたら 滝にでも打たれて性根変えてきたほうがいい」って言いたいような 女性や性を何だと思ってるんだというとんでもないものも確かにあるよ(ネットはより一層)
    だけど 規制という方法では そういうものは排除出来ないと思う。
    アメリカの現状がそれを証明しているのに それでも規制するというのは 感情論だと思うんだ。
    しかし・・・
    なーんにもヨノナカの事を考えていない愚息も ことが自分に関わってくると 違いますね。憤懣やるかたない顔で 愚息が言うには
    「青少年健全育成条例の改正案ってナニ考えてんだよ!」
    と ショーネンどもは中学校の廊下で怒りのミニ集会をしていたそうな。デモでもすれば?
    「街頭インタビューでは 親世代は規制賛成が多いそうだよ」
    「冗談じゃねーぞ!マンガ文化を潰す気か!」
    かーちゃん達のサイトでは育成条例の改正案に反対するスレが立ってっぞ。

  6. ボニちゃん、
    >女性や性を何だと思ってるんだというとんでもないものも確かにあるよ(ネットはより一層)
    これは、たしかにそのとおり。
    私も、こんなもん見たくない、見せたくない、なんてレベルじゃなくて、
    もし見たら(見ないようにしてるけど)、
    作者の妄想ともども焚書にしたい、と思うだろうと思う。
    >だけど 規制という方法では そういうものは排除出来ないと思う。
    アメリカの現状がそれを証明しているのに それでも規制するというのは 感情論だと思うんだ。
    そう、あるいは、感情論を巧妙に利用しているというかね。
    ネットで、PTA団体が知事に、
    「子どもたちを有害なものから護るために、お力添えをお願いします」と、
    早期「改正」の陳情書を渡す画像を見たんだけど、
    知事は、まかせてくれとばかりに大きく頷き、
    「だいたい日本みたいに、野放図に(有害物が)出回ってる国なんてないんですよ」
    と答えてた。(あれはニュース番組か?)
    たしかに、野放図はその通りで、欧米の規制が厳しいのもその通りだけど、
    にもかかわらず日本では性犯罪が少ない、という現実を情報として流さないのは、
    ちょっと犯罪的ですらあると思うよ。
    だってそれ知らなければ、子どもを心配する(つまり大多数の大人は)規制賛成になるよ。
    でも、「弾圧はまずエロから」というようなことがあるからね。
    そういう、規制に賛同を得られやすい「とんでもないもの」から、ってことだよね。
    やっぱり、都や国に表現の規制を委ねるのは「健全」ではない、ということは、
    しっかり押さえておかないと、と、くどくどまたつぶやいてしまう私。
    だってさ、その規制の基準がちょっとずれたら、
    私たちのだって焚書扱いになるかも、なんだもん。
    それに「とんでもないもの」なんてこれっぽちもない、
    「健全」で「清潔」な社会って、不気味に怖くない?
    >「冗談じゃねーぞ!マンガ文化を潰す気か!」
    そうだ、そうだーー。
    それが健全な青少年ってもんだ。
    だいたい、「青少年をなめるなよー」だよね。

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